2018年5月、安室奈美恵さんの東京ドーム公演で身分証明書として、障がい者手帳を提示したにも関わらず、入場拒否された障がい者についてのニュースがありました。
どうしてこんなことのなるのか?
療育手帳が国から発行されたものではないからなど、障がい者や障がい者手帳の認識不足だったり、市町村によって手帳の様式が異なるからなど、手帳の信頼性を疑ってしまう原因があったり、
そもそも、指定する身分証明書の種類というのも、公演主催者やチケット販売・管理会社が過去の通例に従って載せているだけだったり、
また、手帳の偽造問題やチケット不正転売禁止法の施行も絡んでいるようです。
まだまだ障がい者に対する認識が薄いなあと改めて実感させられる出来事でした。
今回はそれらの検証を含め自分なりにまとめてみました!
障がい者手帳が身分証明として認められない理由
障がい者手帳は3っあります。
◯療育手帳
◯精神障害者保健福祉手帳
◯身体障害者手帳
現在、身分証明書として認められていない障がい者手帳は、主に療育手帳、もしくは療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の両方です。
以下は僕の憶測の域を出ないのですが、障がい者手帳が身分証明として認められない理由を挙げてみたいと思います。
通例
これは言わずもがな障がい者や障がい者手帳に対する認識不足によるものです。
公演主催者またはチケット販売・管理会社が過去の通例にならい、そのまま指定する身分証明書を適用したものです。
確かに時代とともに、指定される身分証明書の種類は変わってきたかもしれませんが、
少なくとも障がい者手帳のことに関しては、その認識は変わっていないと言っていいかもしれません。
写真
顔写真のない手帳
障がい者手帳の中で、精神障害者保健福祉手帳に関しては顔写真の貼付の決まりはありませんでしたが、
2006年(平成18年)の精神保健及び精神障害者福祉法(以下、精神保健福祉法)の改正により、本人の顔写真の貼付は原則となりました。
ただ、
第2-4(5) 手帳には、当該手帳の交付を受けた者の写真を表示するものとする。ただし、申請者が写真の表示に応じられない場合は、写真の表示がないことで受けられるサービスに差異が生じることがあり得ることを説明した上で、やむを得ない理由がある場合として、写真を表示しないこととすることは差し支えない。
出典:「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」の一部改正について 厚生労働省
とあります。
これはおそらくプライバシーに配慮してのことだと思います。
精神障害者の多くは、見た目は普通、知能も比較的高い人たちです。
周囲からの偏見もあり、知られたくないという思いも強く、そういう声も多かったのでしょう。
精神障害者保健福祉手帳の表紙にも、精神とは書かず、「障害者手帳」との表題が決められています。
つまりは現在でも本人の顔写真のない手帳を持っている障がい者がいるということです。
顔写真のない身分証明書が存在しているなら、それは身分証明としての有効性は薄いでしょう。
古い写真
更新義務のない身体障害者手帳もしくは更新期間の長い一部の療育手帳においては、その顔写真は取得または更新当時のものにならざるを得ません。
療育手帳の更新期間は自治体それぞれで異なります。
年齢を重ねるにつれて更新期間は長くなるのが一般的ですが、
当然、身分証明としての効力を保つための(顔写真)更新ではなく、
障害の程度が安定してくるという理由で更新期間が長くなっているわけです。
写真だけの更新を福祉関係団体は推奨しているようですが、
支援員としても、写真撮影の労力を考えると、更新しないでいいなら更新したくはないです。(正直💦)
70、80歳の手帳を見ると、若かりし頃の、髪の毛が黒くてフサフサの顔写真が使われていたりします(笑)
これに関しては、身体障害者手帳にも言えることなのですが、今後も身分証明書として認められるためには改善していくべき項目の一つですね。
障がい者の見た目
その手帳が偽造や不正に取得したものではないことが分かる、
=手帳が確実に本人であるという身分証明として信頼できる、という観点から言えば、
簡単な見分け方は、単に見た目で障がい者であることが分かるということもあったのではないでしょうか。
つまり知的障がいや精神障がいは見た目で分かりづらい、という偏見もあったのではないかということです。
だから身体障害者手帳だけは身分証明として認められてきたという安易な発想です。
実際は身体障がい者でも見た目で分からない、内部障がいも身体障がいとして認定されていますが、
それは、身体障害者福祉法の施行(身体障害者福祉手帳の規定)から17年後の改正からです。
他にも精神障がいにおける発達障害など、障がいと認定される範囲というものは広がりつつあります。
障がい者手帳が身分証明として認められない理由として、障がい者の見た目が理由とする僕の推測がただの推測であるにしても、
世の中の障がいに対する認知も含め、見た目だけ判断することは危険であることも知って欲しいですね。
交付元
一部の間では、手帳が身分証明書として認められない理由に、その交付元の違いが指摘されています。
しかし、いずれの手帳も法律または通知によって、都道府県知事または指定都市が交付、と記載されています。
勘違いしてはいけないのは、決して都道府県>市、ではない、ということです。
各都道府県は、(政令)指定都市があればその市に権限を委譲していることになるので、
市から交付されたからといって、交付された手帳の信頼性が落ちるということには繋がりません。
法的根拠
3っの手帳のうち、療育手帳だけは法律で規定されていません。
その元々の理由や経緯は分かりませんでした。
身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に、
精神障害者保健福祉手帳は、精神保健福祉法に、規定されています。
では療育手帳はどうなのかというと、厚生事務次官より通知されているのみです。
「通知」は、法的拘束力のない「お知らせ」に過ぎません。
こういう風にしていきませんか?
こうしていきましょうよ。
っていうニュアンスです。
つまり国(省庁・法律)に従って療育手帳を交付するわけではないんですね。
2000年には地方自治法の改正で機関委任事務が廃止されたことにより、
各自治体で柔軟に対応しなければならない背景がありました。
この通知以後もそのまま法律で規定することなく自治体に任せているということでしょうか?
皮肉にもそれが、身分証明として認められない理由の一つになっているのかもしれません。
ただ、それが本当に身分証明書としての信頼性を下げることにつながるのでしょうか?
様式・呼称
療育手帳には法的根拠はありません。
それなので、発行する自治体、つまり、都道府県や市で様式や呼称など実施要綱が異なっているんですね。
通知によって、様式や障害の判定区分なども提示しているのですが、参考程度ですから。
その辺のばらつきも主催者やチケット販売・管理会社にとっては身分証明書として認めづらい理由の一つではありますね。
その公演が大規模であればあるほど、入場は厳正かつ迅速でなければなりませんから、曖昧な身分証明書は排除されてもおかしくはありません。
プライバシーとサービス
障がい者手帳の一部は、顔写真の貼付を任意にしたり、手帳の表題を変えることができたりと、障がい者のプライバシーに配慮した手帳となっています。
それは言ってみれば、身分証明としては逆行しているわけです。
自分を障がい者としてさらけ出したくない障がい者が多ければ多いほど、プライバシーに配慮しなければならず、身分証明としての有効性は薄れてくると言っていいでしょう。
別の言い方をすれば、障がい者自身が障がい者であることの身分証明を堂々と提示できるような世の中ではないということです。
また、なにより手帳は、障がい者への支援のための手帳です。
そもそも障がい者手帳の目的は、援助措置を受けやすくすることや社会復帰の促進と自立と社会参加の促進を図ることです。
本来の目的に立ち返るならば、また、世の中の障がい者への無理解が改善されないうちは、
そして、現状、無用な誤解を生んでしまう可能性があるならば、手帳を身分証明として認めないという判断も賢明なのではないでしょうか。
障がい者手帳の種類と概要
療育手帳
概要
知的障がいと認められた人に交付される。
昭和48年9月、厚生次官通知により、療育手帳制度要綱が通知され、療育手帳制度が創設。
手帳の表題は発行する自治体が決めることができる。
例:みどりの手帳、愛の手帳、など。
等級・区分
基準としては、知能指数がおおむね35以下(肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者については50以下)」が重度(A)、それ以外を(B)とされていますが、
前述したように、障がいの程度を表す区分は、発行する自治体により異なります。
精神障害者保健福祉手帳
概要
指定医により精神障がいが認められた人に交付される。
出典:「精神障害者保健福祉手帳」 常陸太田市
平成7年の精神保健及び精神障がい者福祉に関する法律の改正で規定される。
なお、2年ごとに更新して認定されなければならない。
等級・区分
1〜3級と定められている。
身体障害者手帳
概要
指定医により、身体に関わる特定の障がいが認められた人に交付される。
昭和24年に身体障害者福祉法が制定され、翌25年4月に施行された。
等級・区分
1〜6級(7級)と定められている。
障がい者手帳の発行手続き
手帳があることで受けられるサービス
手帳ごとで、または市町村により若干受けられるサービスは異なりますが、代表的なものを挙げています。
◯一部税金の控除
◯医療費などの助成・手当
◯公共料金の割引
障がい者手帳が身分証明として認められない背景
直接は関係してはいませんが、障がい者手帳が身分証明として認められない経緯として放ってはおけない問題があります。
チケット不正転売禁止法について
そもそもなぜ入場の際に身分証明しなければならなくなったのか?
それは以前から、チケットの転売目的の買い占めや高額転売が問題になっており、
チケットがあればそれで良い、という時代ではなくなったんですね。
都道府県の迷惑防止条例により取り締まってきましたが、
2019年6月に、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下、チケット不正転売禁止法)が施行されました。
これにより、そのチケットが適正に購入されたものであるのかどうか、という観点から、本人確認も興行主(主催者)の努力義務となりました。(条文3章5条)
チケット販売会社としても、自分たちの外で利益が生まれてしまうことには納得できないでしょうし、
本当に楽しみたい人の手に渡って欲しいですよね。
ただ、入場口の現場の係員は大変じゃないかな。
入場の利便性を考えても、障がい者手帳の有効性や公演関係者の障がい者手帳に対する認識を高めてほしいものです。
手帳の偽造・不正取得問題
これも以前より取り沙汰されている問題の一つです。
障がい者手帳は根本的に、
そんなこんなで、偽造や不正取得がやすやすと行われていた経緯があります。
これはそのまま、身分証明としての信頼性を疑うに足る理由ですよね。
これに対して今後、障がい者手帳のカード化が進んでいくはずですし、それはまた、身分証明としての信頼性を向上させることに繋がります。
まあ、なかなか障がい者手帳を目にする機会は少ないとは思いますが…。
身分証明として有効な証明書類の例
障がい者手帳が身分証明として認められるべき理由
その人が本当に存在しており、また、その人が他の人ではないことの証明が、安心で安全な国民の生活を実現するとして、
総務省は、本人確認方法の調査・分析を行なっています。(平成20年9月のもの)
本人確認と信頼性
その人がその人であることを証明する証明書は、発行・交付する主体によって手続きや方法が異なっています。
そこで総務省は、行政手続きにより発行された証書等が本人確認書類として二次利用される際の信頼性について調査結果をまとめています。
出典:「本人確認書類として二次利用される際の証書等の信頼性の分析結果」総務省
表の上に行けばいくほど信頼性が高いことになります。
見えにくいかもしれませんが、療育手帳と身体障害者手帳は、パスポートと同様、最上位の信頼性となっています。
一方、精神障害者保健福祉手帳については、次点となっています。
これは、証明書のそもそもの発行手続きの際、戸籍謄(抄)本や住民基本台帳、住民票の写しなどによる確認が必ずしも行われていない、
ということで、実在性の担保が高いとは認められない(一番左のアルファベットがa)とされているためです。
今から10年以上前の調査であること、調査・分析の対象が広範囲であること、内容がその証明書等の各発行・交付元の手続きの差異に焦点を当ていることで、
僕が障がい者手帳が身分証明として認められない理由として挙げたこととは別の観点で調査されています。
なので精神障害者保健福祉手帳の顔写真の原則などなど、細々とした決まりごとや手帳ごとの発行・手続きの違いは度外視されていますが、
それでも、この調査において、住民票の写しや住民基本台帳カードよりも上位に位置していることは興味深いものです。
まとめ
障がい者手帳が身分証明として認められない理由は僕の推測に過ぎません。
ただこの記事を書いていて感じたことは、まだまだ時代がついて来ていない感は否めないですね。
現在、身分証明書として認められていない障がい者手帳は、主に療育手帳、もしくは療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の両方です。
その理由ははっきりと分かりませんでしたが、
障がい者サービスにおいて改善の余地がまだまだ残されていることが分かりました。
そして、障害福祉の歴史が少しづつ変わってきていることは確かです。
各障がい者手帳の明確な規定や交付にかかる手続きの統一、プライバシーに配慮しながらも公に堂々と提示できる環境など、変えるべきことを変えていかなくてはなりません。
障がい者の声が歴史を変えるはずだと信じていますし、
僕ら支援者(このブログ⁈)がその手助けになれば幸いです。
障がい者と支援員を応援しています!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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