SDGs(エスディジーズ)は世界全体で取り組むべき行動計画です。
ただ、SDGsが指し示す「目標」が「持続可能な開発」と知ったところであまりに抽象的であると言わざるを得ません。
僕らが関わる障害福祉の分野では一体何が語られているのでしょう?
国連によって示されたSDGsのアジェンダ(行動計画)を元に、障害福祉事業者や僕らが取り組むべき目標や課題を探っていきたいと思います。
SDGsに取り組もうとしている事業者や個人の皆様のヒントになれば幸いです。
※この記事内では外務省仮訳の表記に従い、『障「害」』に統一させていただきます。
SDGs(エスディジーズ)とは
SDGs(エスディジーズ)は、英語の「持続可能な開発目標」の頭文字をとった略語です。
Sustainable Development Goals(持続可能な開発の目標)
最後の小文字の「s」は複数形のs。
2015年国際連合のサミットにおいて採択された、人間、地球、繁栄のための行動計画と目標(アジェンダ)のことで、17の目標と169のターゲットからなり、日本を含む国連の加盟国は2030年までにこの諸目標の達成に尽力しています。
「持続可能な開発目標(SDGs)とは」国際連合広報センター
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
SDGsと障害福祉
SDGsのアジェンダ(議題)は、人間や世界といった地球規模の行動計画です。
その中には当然福祉についても言及され、明記されています。
では「障害」福祉についてはどうでしょうか。
前提として、SDGsは地球規模の行動計画であるが故に、アジェンダにおいて使われている概念も広範囲であり、障害や福祉の言葉が含まれていなくても必ずしも「障害(者)」に当てはまらないということはありません。
SDGsにおける障害福祉の該当目標
17っある目標(Goals)には「障害」の文言は盛り込まれておらず、各目標に付随したターゲットに記載があります。
ちなみに英語で「障害(者)」は「disability(persons for disabilities)」という表記になります。
目標4 教育
すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
Ensure inclusive and equitable quality education
and promote lifelong learning opportunities for all
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
この目標では、子どもを中心に、ジェンダーや障害、環境に左右されず正当な教育が行われるよう提言されています。
目標4.5
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする
By 2030, eliminate gender disparities in education and ensure equal access to all levels of education and vocational training for the vulnerable, including persons with disabilities, indigenous peoples and children in vulnerable situations
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標4.a
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする
Build and upgrade education facilities that are child, disability and gender sensitive and provide safe, non-violent, inclusive and effective learning environments for all
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標8 雇用
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth,
full and productive employment and decent work for all
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
この目標では障害者を含むすべての人間が真っ当な仕事に就き、相当の賃金を得られるよな雇用を生み出すこと、広くは各国の経済成長を促すことに言及しています。
目標8.5
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する
By 2030, achieve full and productive employment and decent work for all women and men, including for young people and persons with disabilities, and equal pay for work of equal value
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標10 平等
各国内及び各国間の不平等を是正する
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
Reduce inequality within and among countries
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
それぞれの状況、環境に関わらずすべての人々が社会や政治への参画とその機会を得られるよう不平等を減らすことに触れています。
目標10.2
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する
By 2030, empower and promote the social, economic and political inclusion of all, irrespective of age, sex, disability, race, ethnicity, origin, religion or economic or other status
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標11 生活環境
包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
Make cities and human settlements inclusive, safe, resilient and sustainable
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
ここでは人々が安心して暮らせるよう、生活環境の改善、安全な居住空間の提供、防災について語られ、それが持続可能でレジリエント(強靭で、回復力のある、柔軟性のある)であることが求められています。
目標11.2
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する
By 2030, provide access to safe, affordable, accessible and sustainable transport systems for all, improving road safety, notably by expanding public transport, with special attention to the needs of those in vulnerable situations, women, children, persons with disabilities and older persons
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標11.7
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する
By 2030, provide universal access to safe, inclusive and accessible, green and public spaces, in particular for women and children, older persons and persons with disabilities
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標17 協力関係
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
Strengthen the means of implementation
and revitalize the Global Partnership for Sustainable Development
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
各国がこのSDGs、持続可能な開発目標を達成できるよう国際協力関係を強化すること、ここでは開発途上国に対して障害を含む様々な情報の取得能力を向上させるように支援することに言及しています。
データ、モニタリング、説明責任
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
目標17.18
2020年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる
Data, monitoring and accountability
By 2020, enhance capacity-building support to developing countries, including for least developed countries and small island developing States, to increase significantly the availability of high-quality, timely and reliable data disaggregated by income, gender, age, race, ethnicity, migratory status, disability, geographic location and other characteristics relevant in national contexts
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
SDGsにおける「障害(者)」についての言及項目
ここでも「障害(者)」の言葉が含まれていないからといって「障害(者)」に関して目標やターゲットから外れているとは必ずしも言えませんが、もう少し広げて目標以外のアジェンダの中で「障害(者)」について語られている項目を見てみましょう。
基本的人権と自由の尊重
19.(人権)
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
我々は、世界人権宣言及びその他の人権に関する国際文書並びに国際法の重要性を確認する。我々は、すべての国が国連憲章に則り、人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治若しくは信条、国籍若しくは社会的出自、貧富、出生、障害等の違いに関係なく、 すべての人の人権と基本的な自由の尊重、保護及び促進責任を有することを強調する。
We reaffirm the importance of the Universal Declaration of Human Rights, as well as other international instruments relating to human rights and international law. We emphasize the responsibilities of all States, in conformity with the Charter of the United Nations, to respect, protect and promote human rights and fundamental freedoms for all, without distinction of any kind as to race, colour, sex, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth, disability or other status.
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
脆弱な人々への支援
23.(脆弱な人々)
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
脆弱な人々は能力強化がされなければならない。新アジェンダに反映されている脆弱な人々とは、子供、若者、
障害者(その内 80%以上が貧困下にある)、HIV/エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民を含む。また、我々は複合的な人道危機の影響を受けた地域に住む人々及びテロの影響を受けた人々が直面する困難や苦難を取り除き、脆弱な人々の特別なニーズに対する支援を強化すべく、国際法に照らしながら、更なる有効な措置及び行動をとる。
People who are vulnerable must be empowered. Those whose needs are reflected in the Agenda include all children, youth, persons with disabilities (of whom more than 80 per centlive in poverty), people living with HIV/AIDS, older persons, indigenous peoples, refugees and internally displaced persons and migrants. We resolve to take further effective measures and actions, in conformity with international law, to remove obstacles and constraints, strengthen support and meet the special needs of people living in areas affected by complex humanitarian emergencies and in areas affected by terrorism.
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
教育の機会提供と環境整備
25.(教育)
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
我々は就学前から初等、中等、高等、技術、職業訓練等のすべてのレベルにおける包摂的で公正な質の高い教育を提供することにコミットする。性、年齢、人種、民族、に関係なくすべての人々が、また障害者、移民、先住民、子供、青年、脆弱な状況下にある人々が社会への十全な参加の機会を確保するために必要とされる技能や知識を獲得するめの生涯学習の機会を有するべきである。安全な学校及び結束力のある地域社会や家族等を通じ、国が人口ボーナスを享受できるようにすることにより、我々は、子供や若者に彼らの権利と能力を完全に実現するための育成環境を提供するよう努める。
We commit to providing inclusive and equitable quality education at all levels – early childhood, primary, secondary, tertiary, technical and vocational training. All people, irrespective of sex, age, race or ethnicity, and persons with disabilities, migrants, indigenous peoples, children and youth, especially those in vulnerable situations, should have access to life-long learning opportunities that help them to acquire the knowledge and skills needed to exploit opportunities and to participate fully in society. We will strive to provide children and youth with a nurturing environment for the full realization of their rights and capabilities, helping our countries to reap the demographic dividend, including through safe schools and cohesive communities and families.
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
データを元にしたフォローアップとレビュー
74.(基本原則)
すべてのレベルにおけるフォローアップとレビュー(FUR)のプロセスは、 次の原則によって導かれる。
Follow-up and review processes at all levels will be guided by the following principles:
g.これらは、各国の主導で行われる評価やデータに基づく正確で根拠のあるものである。各国が行う評価やデータは、高品質で、アクセス可能、時宜を得た、細分化されたデータに基づくものであり、具体的には、収入、性別、年齢、人種、民族的属性、移住者の法律上の地位、障害、地理的属性及びその他各々の国内での状況に関連のある特徴等を踏まえたデータである。
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
They will be rigorous and based on evidence, informed by country-led evaluations and data which is high-quality, accessible, timely, reliable and disaggregated by income, sex, age, race, ethnicity, migration status, disability and geographic location and other characteristics relevant in national contexts.
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
フォローアップ・レビューは、追跡調査とその評価のことです。
各国の人種や性別、障害などの正確なデータがアジェンダの実施を促し、組織的な枠組みであるフォローアップとレビューによって課題や進捗、成果が把握され、共有されるということです。
SDGsにおける「福祉」等についての目標項目
目標3 保健と福祉
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
目標3.4
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、
予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する
By 2030, reduce by one third premature mortality from non-communicable diseases through prevention and treatment and promote mental health and well-being
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
目標9 産業化と経済発展
強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
及びイノベーションの推進を図る
Build resilient infrastructure, promote inclusive
and sustainable industrialization and foster innovation
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations
目標9.1
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮約)」外務省
すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する
Develop quality, reliable, sustainable and resilient infrastructure, including regional and transborder infrastructure, to support economic development and human well-being, with a focus on affordable and equitable access for all
「Transfoming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development」United Nations ※太字強調筆者
まとめ
SDGsにおいては、「障害(者)」だけに特筆された目標やターゲットはありません。
ともすれば弱い立場に立たされがちな子どもや高齢者、女性と並列的に「障害(者)」が言及されており、広い意味での「福祉」に焦点が当てられています。
また、そんな脆弱な人々を含めた、性別や年齢、人種や肌の色、宗教と民族、収入、出生の違いに関わらない「すべての人々」が対象であることで、国連や世界が目指す範囲の大きさの地球規模であることが分かるのです。
このSDGsは福祉事業者や個人に対して何かしらの法的拘束力を持つものではなく、強制されるものではありません。
たとえ福祉事業者がSDGsの目標を掲げたところで、法や制度に縛られ思うように実行に移せないこともあるかもしれませんが、SDGs達成率の低い開発途上国に目を向けてみれば日本の法や制度がSDGsの目標とそれほど遠くはないことに気付かされるかもしれません。
もっと言えば障害福祉の現場で働き、忙殺されている僕らの一つ一つの支援がSDGsの目標の一端を担っていることに気付くはずです。
「rankings-Sustainable Development Report 2022」Sustainable Development Solutions Network