障がい者施設など事業所に支援員として勤めていると、一度は「社協(しゃきょう)」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
社協とは社会福祉協議会のことで、一見して公的機関のようにも聞こえますが…。その実どうなのか。また、障がい福祉との関係も含めお伝えしようと思います。
社会福祉協議会の役割
社会福祉協議会は公的機関による事業では行き届かない、より身近で地域に根付いた福祉事業を行う団体です。
社協の大まかな役割は、
それぞれの都道府県、市区町村で、地域に暮らす皆様のほか、民生委員・児童委員、社会福祉施設・社会福祉法人等の社会福祉関係者、保健・医療・教育など関係機関の参加・協力のもと、地域の人びとが住み慣れたまちで安心して生活することのできる「福祉のまちづくり」の実現をめざしたさまざまな活動
たとえば、各種の福祉サービスや相談活動、ボランティアや市民活動の支援、共同募金運動への協力など、全国的な取り組みから地域の特性に応じた活動まで、さまざまな場面で地域の福祉増進
引用元:「社会福祉協議会とは」社会福祉法人全国社会福祉協議会
となっています。
もう少し具体的には、
・ボランティア活動に関する支援、
ボランティアの普及活動・ふれあいサロンやいきいきサロン等、
住民のつながりの場の提供・民生児童委員や近隣住民などによる
小地域での見守りネットワークづくり・民間福祉サービスの推進に向けた
地域福祉活動計画の策定・ホームヘルプサービスやデイサービスの運営等、
介護保険サービスによる生活の支援・食事サービスや入浴サービスの実施等、
高齢者・障害者への生活支援サービス・日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)
・母子家庭組織への支援、子供会・クラブの組織化等、
児童への生活支援サービス・生活福祉資金の貸付や各種相談活動の実施
・共同募金への協力
引用元:「社会福祉協議会の現状」厚生労働省社会・援護局地域福祉課
などが挙げられます。
障がい福祉分野に限らず、広く地域福祉に貢献していることが分かります。
また、僕らの福祉の仕事と重複している事業もあるようです。
各社会福祉協議会の組織と役割
社協は階層的に組織化され、それぞれ役割も異なっています。
全国よりも都道府県、都道府県よりも市町村というように地域が狭くなるほどその業務や事業は僕らの生活により身近な存在となります。
市町村社会福祉協議会の役割
高齢者や障害者の在宅生活を支援するために、ホームヘルプサービス(訪問介護)や配食サービスをはじめ、さまざまな福祉サービスをおこなっているほか、多様な福祉ニーズに応えるため、それぞれの社協が地域の特性を踏まえ創意工夫をこらした独自の事業に取り組んでいます。
地域のボランティアと協力し、高齢者や障害者、子育て中の親子が気軽に集える「サロン活動」を進めているほか、社協のボランティアセンターではボランティア活動に関する相談や活動先の紹介、また、小中高校における福祉教育の支援等、地域の福祉活動の拠点としての役割を果たしています。
引用元:「社会福祉協議会(社協)」社会福祉法人全国社会福祉協議会
市町村社会福祉協議会は僕らにより身近な存在であるために、例えば生活介護事業や就労継続支援B型事業、障がい者総合支援法に基づいたホームヘルプ事業など、障がい当事者と密接に関わる業務を行なっています。
事業所の名だけでは気付かなかったが、実はその経営主体が社協だったということもあるのです。
都道府県社会福祉協議会の役割
都道府県社会福祉協議会では、認知症や知的障害、精神障害等によってご自身の判断能力に不安のある方を対象に福祉サービスの利用援助や日常的な金銭の管理等をおこなう「日常生活自立支援事業」を市区町村社会福祉協議会と連携して実施しています。また、福祉サービスに関する苦情の相談を受け付け、中立の立場から助言、あっせんなどをおこなうことによって問題の解決を図るために「運営適正化委員会」を設置し、サービス事業者の適正な事業運営と、サービス利用者の支援に向けた取り組みを進めています。さらに、福祉サービスの質の向上を図ることを通じてサービスを利用する方がたの安心と満足を実現するため「福祉サービスの第三者評価事業」にも積極的に取り組んでいます。
また、経済的な支援を必要とする方がたには、生活や就業等に必要な資金(生活福祉資金)を低利で貸し付けています。近年は、各種貸付制度(介護福祉士修学資金等貸付制度、保育士修学資金貸付等制度、ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業、児童養護施設退所者等に対する自立支援資金貸付制度)も実施しています。
そのほか、福祉関係者に対する専門的な研修事業の実施、市区町村社会福祉協議会のボランティアセンターとの連携によるボランティア活動の振興、災害時には必要に応じて災害時ボランティアセンターを立ち上げるなどして被災地支援にも取り組んでいます。また、福祉への理解をすすめるために小中高校における福祉教育の推進、さらには「福祉人材センター」における福祉の仕事に関する求人・求職情報の提供などさまざまな事業をおこなっています。
引用元:「社会福祉協議会(社協)」社会福祉法人全国社会福祉協議会
都道府県社会福祉協議会が行う事業の中で現状僕らに身近な事業の一つは、生活福祉資金貸付制度です。
その中の緊急小口貸付等の特例貸付は、今のコロナによって休業や失業を余儀なくされた方々のために実施されたものです。
その窓口は市町村社協となりますが、国や地方公共団体からの委託という形で都道府県社協が貸付制度の実施主体となっています。
全国社会福祉協議会(全社協)の役割
全国の福祉関係者や福祉施設等事業者の連絡・調整や、社会福祉のさまざまな制度改善に向けた取り組み、また社会福祉に関する図書・雑誌の刊行、福祉に関わる人材の養成・研修といった事業を通じてわが国の社会福祉の増進に努めているほか、アジア各国の社会福祉への支援など福祉分野の国際交流にも努めています。
引用元:「社会福祉協議会(社協)」社会福祉法人全国社会福祉協議会
社会福祉協議会の実態
もう少し社協について踏み込んでいきたいと思います。
民間団体と法的根拠
社協は営利を目的としない民間団体ですが、NPO法人でもなく、かといって公的機関と言われてもそう遠くはない、社会福祉法人です。(社協の99%以上が法人化)
遠くはない、というのも法律にその名称と役割が明記されているからです。
- 「社会福祉法 第百九条〜第百十一条」イーガブ法令検索
遡れば社会福祉協議会は、1951年(昭和24年)GHQからの「社会福祉に関する協議会の設置」の指示が発端となり、1954年(昭和26年)中央社会福祉協議会(現全国社会福祉協議会)が創設されました。
その事業と活動は公共性、公益性ともに高く、行政と地域住民、福祉関連団体との仲介役として公的機関と遜色ない、かつ、より身近に社会的弱者に寄り添うことができる細やかな役割を果たしています。
行政からの委託と出向関係
民間団体であるとはいえ、特に行政とは密接に関わり合っています。
事業の委託
自治体はより福祉の各分野に特化した社協にその業務を委託することがあります。
例えば相談支援事業は多くの市町村社協で実施されており、行政と委託・受託関係にあることが多いようです。
出向職員
人数の分母は少ないものの、社協から自治体、自治体から社協へ出向しています。
構成員と公務員
社協は民間の組織です。なのでその職員は公務員ではありません。
また、法律にも明記されている通り、その構成員は、
その区域内における社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者が参加し、かつ、指定都市にあつてはその区域内における地区社会福祉協議会の過半数及び社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が、指定都市以外の市及び町村にあつてはその区域内における社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が参加するもの
引用元:「社会福祉法第百九条」イーガブ法令検索
となっています。
法人化されていないより狭い学校区や自治会区などの日常生活圏域で組織された社協のことを指す。
これはつまり半分以上が福祉に関わる事業経営者であることで、多くの社会的弱者を網羅するべく、より福祉に特化した包括的体系的組織の結集を目指したものと想像できます。
さらにここに「社会福祉に関する活動を行う者が参加」することで経営者だけではない民間地域住民を広く集めて組織を拡充することができるのです。
また、この「社会福祉を目的とする事業を経営する者」については「新・社会福祉協議会基本要項」で全社協が言い換えをしています。
2.市区町村社会福祉協議会の組織、財政、事務局
(1)会員(構成員) 市区町村社会福祉協議会は、おおむね次のような住民組織、公私の社会福祉事業関係者および関連分野の関係者をもって構成員とする。
1 住民組織
引用元:「新・社会福祉協議会基本要項Ⅱ」社会福祉法人 全国社会福祉協議会
ア.地区社会福祉協議会、住民自治組織または住民会員
イ.当事者等の組織
ウ.ボランティア団体
2 公私の社会福祉事業関係者および関連分野の関係者
ア.民生委員・児童委員またはその組織
イ.社会福祉施設・社会福祉団体
ウ.更生保護事業施設・更生保護事業団体
エ.社会福祉行政機関
オ.保健・医療、教育、労働その他関連分野の機関・団体
3 その他地域福祉推進に必要な団体
2のイおよびウは社会福祉事業法の「社会福祉事業および更生保護事業を経営する者」 の過半数参加の規定に基づくものであるが、この場合、「経営する者=法人等の代表」としてとらえるのではなく、社会福祉協議会がすすめる地域福祉活動の観点から、個々の施設の参加とするのが適切であり、その全数参加を図る。その際、各施設を経営する理事者の理解を得て参加をすすめる必要がある。
引用元:「新・社会福祉協議会基本要項Ⅱ 解説」社会福祉法人 全国社会福祉協議会
給与と財源
公的機関とは似て非なる社協と公務員とは似て非なるその職員のお金のことは気になりますね。
給料や運営に係る財源はどうでしょうか。
給与は行政職俸給表に準拠
実態調査においては、正規職員の初任給が16〜19万円未満が最も多く、思ったよりも高くはないという印象です。(市区町村社会福祉協議会の場合)
引用元:「社会福祉協議会活動実態調査等報告書2018」社会福祉法人 全国社会福祉協議会
ただ、その給与表が「行政職俸給表に準ずる」社協が7割を超えています。
行政職とは国家公務員を含む公務員で、職種に応じてその給与体系を目安に給与(昇給・減給)が決定するということです。
かつ、昇給や減給などに関わる人事考課制度を取り入れていない社協が7割、
また、社協独自の給与表そのものがない社協が6割。
業務に対する姿勢や態度、能力や成績などの本人と上長による評価を適切に査定し、昇進や昇給、異動などの処遇を決定すること。
ハラスメントを含む私情の入った独断的人事を避けるため、また、年功序列式から実力主義への移行のために取り入れが始まった。
これはもしかすると年功序列にエスカレーター式で役職や年収が上がっていくことを意味しているのでしょうか。
実際の給与のことは分かりませんが、多くの社協が公務員の給与体系を参考にしているようです。
僕がお世話になった法人でも人事考課が行われ、年度始めに自分の業務とその目標を設定し、
半年に一回それまでの半年間の業務において予め自分で設定した目標に対して、何ができて何ができなかったかの達成度合いや反省、
また、業務に対する姿勢や態度、利用者に対する支援姿勢や態度、など各項目の質問事項に答え提出していました。
財源と職員給与
社協の財源は主に
- 会費
- 国や地方公共団体からの補助金
- 委託金
- 募金配分金
- 寄付金
- 事業収益
となっています。
その中で補助金や委託金、事業収益などの自主財源が社協職員への給与、人件費に充てられています。
補助金が社協の経営に係る事務局員らの人件費に、
委託金が委託に係る事業に従事する職員の人件費に、それぞれ充てられていますが、
僕らの税金が投入されているといっても、多くの社協では今以上に独自事業を拡大したり、人員を補充するといった余裕がないとの声も散見されていました。
社協の会員として集められている会費についても社協への関心が薄れているなど、財源確保に苦労しているようです。
共同募金と財源
僕が小学生の時、学校の先生から10円とかそれ以上の小銭を持ってくるように言われ、針の付いた赤い羽根をもらった記憶があります。
あれが「赤い羽根共同募金」で、社協の事業の一つであったのです。
社協の大きな事業の一つであり、財源の一つでもある共同募金とその配分金については原則人件費には充てられないようです。
2 社会福祉協議会について
引用元:「共同募金の実施について」厚生省社会局長通知
…
(2) 社会福祉協議会の職員の人件費、事務費等については、なるべく速かにそれ自体の会費収入および国、地方公共団体の補助金等によつて賄い、共同募金の配分金に、一部であるにせよ依存しないことが望ましいので、国は勿論、地方公共団体においても公費補助の増額に努力するとともに、社会福祉協議会においても、会費収入の増加等について努力すること。
何にも考えていなかったあの頃、社協が身近に関わっていたんですね。
社会福祉協議会の役割と障がい者施設との関わり
ここでは僕が実際に経験した社会福祉協議会と障がい者施設との関わりを一例としてご紹介します。
認定調査
障がい福祉においては障がい支援区分の(再)認定のために行われる調査のことです。
一定の資格取得者や研修修了者である認定調査員は市区町村職員として、或いは市区町村に委託された社協職員として調査を行います。
また、特定の相談支援事業者の相談支援専門員が委託されて行うこともあります。
認定調査は一般的に調査員と認定調査を受ける当事者(施設利用者)、保護者の3者で行われるのですが、
特に入所施設やグループホーム利用者など、身寄りがない、保護者と連絡がつかない、保護者宅と施設が離れている、保護者の高齢化、などの理由によって、代わりに利用者の担当支援員(管理者やサビ管)が同席することもあるのです。
僕は何度か経験し、社協の認定調査員に会いました。
成年後見制度と遺産相続
市町村社協の一部においては成年後見制度の相談を受け付けています。
僕はある利用者の担当支援員になり、その後利用者の父親が亡くなった時のこと。
母親は利用者の幼き頃亡くなっており、兄とも音信不通。
父親が亡くなったことで保護者となり得る近親者が不在でした。
この利用者は成人しており、意思決定はできるものの、相続する預貯金の管理等は難しいのが事実です。
ここで必要なのが成年後見制度です。
判断能力が十分でない方の財産と権利を守るための制度で、主には契約事や相続手続き、お金の管理を本人に代わって行う後見人を立てることです。
その成年後見制度の相談を受け付けてくれる機関の一つが社協でした。
結局行政によって何とか兄を探し、今まで音信不通であった兄を利用者の保護者とすることになりました。
利用者の父と兄もお互い疎遠であって、父が亡くなっても連絡は付かなかったとのこと。
その後は遺産相続の話になり、相続金は利用者と兄で半々。
利用者の相続金や年金は兄が管理することになり、
その手続きを社協の職員も加わり社協の施設のおいて行いました。
中央福祉学院と資格取得
中央福祉学院は全国社会福祉協議会が管理する研修所です。
障がい福祉の仕事でスキルアップ、キャリアアップを目指すなら一度は関わることになるでしょう。
社会福祉主事任用資格認定通信課程や社会福祉施設長資格認定講習課程を代表とする各種研修を実施しています。
全国レベルでの社会福祉研修所としての機能を有する「中央福祉学院」では、社会福祉士、社会福祉主事、児童福祉司等の資格認定に関する各種研修課程・通信課程、社会福祉法人の経営管理、高齢者・障害者・児童の各福祉分野の現任研修など、約70の研修コースを実施しており、毎年全国から約1万2千人が受講しています。
引用元:「主な事業内容」社会福祉法人 全国社会福祉協議会
僕も主事の研修を泊まりで受講しましたが、主催が社協であったなんて気にも留めていませんでした。
まとめ
社会福祉協議会は福祉の狭間で見落とされている社会的弱者を支える役割を担っています。
公的機関との関わりの中で事業やお金のことで問題視されている部分もありますが、
同業者として、痒いところに手が届く、福祉の砦の一つであって欲しいと思います。
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